第54回(令和7年)春燈賞 鈴木 れい香

春燈賞(抄)25句 自選

記紀よりの大和三山笑ひをり
春愁や三面鏡の知らぬ顔
貌鳥や縁切寺は谷戸づたひ
電波塔崩るるごとく陽炎へり
初蝶の風に閊ふる高さかな
はくれんの錆恋の終りはかくのごと
一音の鳴らぬオルガン春惜しむ
まだ何も踏まぬ足裏や若葉風
最果てのくゆる卯の花腐しかな
幸せの少し歪みて金魚鉢
虹消えてこの世の音の戻りけり
艇庫棟の扉全開大南風
ほんたうのことは語らず水中花
どうせなら笑ひ声あげ浮いて来い
片かげり黒猫影を置き去りに
正確な時計ばかりや熱帯夜
箒目に影の生まるる素秋かな
山国の釣瓶落しや朴葉味噌
まどろみの奥へ奥へと虫の声
出遭ふべき出あひとなるや片時雨
帰り来ぬ谺を蔵し山眠る
幼子の白息花となりゆくか
空つ風母強しとも弱しとも
断ち切れぬ思ひ絶つがに海鼠食む
ただ話聞いて欲しくて雪女